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911とフォトグラファー 硫黄島写真との相似について


911のiconic(象徴的な)イメージというと、アメリカではこれだろう。

Ground Zero Spirit、などと呼ばれることもあるらしく、世界の多くの新聞、雑誌に紹介され、さらには切手にもなり、この写真に写った三人の消防士は一躍ヒーローとして扱われることになった。

この写真を初めてみたとき、ドキュメンタリー写真に多少とも興味のある人なら「あ、似てる!」と思ったに違いないのが、ジョー・ローゼンサール(Joe Rosenthal)の撮った硫黄島のアメリカ旗立て写真であろう。特にアメリカの人にとっては、このイメージは正真正銘iconic。まさに「アメリカ的なるもの」を象徴するように心に深く埋め込まれているはずだから、今回の消防士写真がまさにビンゴ!のように彼らの心の琴線に触れたのはほぼ間違いないだろう。

Photos by Thomas Franklin (top) and Joe Rosenthal

 この写真は、アメリカ・ニュージャージー州の新聞である「ザ・レコード(The Record)」氏のフォトグラファーである、トマス・フランクリン(Thomas Franklin)氏によって撮影されたものであるが、10周年を前に彼自身がディレクションして、当日911を取材したフォトグラファーや市井の人にインタビューした作品がある。(以下動画)

 特に興味深いのは、この写真を撮ったフランクリン氏自身が登場して、どうやって撮ったかについて語っている部分。(動画09:45頃から)

 この写真を最初に見たとき、いわゆる「やらせ」ではないかと思ったのだけれど、どうやらそうではなかった。(だからよかった、と言うつもりはない。)

 この場面に遭遇したフォトグラファーはもう一人いたようで、ザ・ジャーナル・ニューズ(The Journal News)紙(ニューヨーク州)のリッキー・フロレス(Ricky Flores)氏。こちらは、フランクリン氏と違う位置、上から広角で撮っている。

 フランクリン氏によれば、これが撮られたのは午後5時ごろ。3人の消防士が旗をいじっていたと思ったら、それがあっというまに掲がった、という一瞬の出来事だったらしい。消防士は自分たちが写真に撮られていることすら知らなかったし、フランクリン氏と消防士たちの間に言葉も交わされたなかった。「彼らは旗を揚げ、私は写真を撮った。それで終わり」、と動画の中でフランクリン氏は言っている。

 そして、この写真が新聞に掲載された日の朝から電話が鳴り始め、この写真がかなりの注目を浴びるものになるだろうことを確信した、と話す。

 そして、フランクリン氏は言う。

 From the next moment forward, this picture had lived a life of its own.

 日本語に訳せば、「そのとき以来、この写真は独り歩きを始めた」とでもなろう。

撮影者の意思に関わらず、象徴的な写真が独り歩きを始め、撮影者や被写体に多大な混乱を引き起こす例は多く見られる。硫黄島の写真もまさにそうだった。

 フランクリン氏は911の取材について、「簡単な撮影ではなかった。あまりにパーソナルなことだから。These were not easy pictures to me. To me it was very personal.」と言っている。

 非常にしばしば、写真は撮影者の意図などを一顧だにせず、見る人の心の中にぶすりとつきささるものなのだ。撮影者はあとから批判されたりするけれど、それも酷な話だ。

 硫黄島の写真でも、その後に旗を立てた兵士たちが英雄視され、この写真を元に国債のキャンペーンに借り出され、兵士の一人はネイティブ・アメリカンで、自分がヒーロー扱いされることに耐えられずアルコール中毒の中で死んだことは、映画にもなってよく知られた話だが、詳細は省く。)

 以下、追記(2018/01/21)

 硫黄島の写真については、その経緯が詳しく語られているドキュメンタリーが2015年、NHKによって放送された。なんと、旗を立てる瞬間の映像までがある。そして、これはアメリカ軍の広報班の求めに応じて再現されたものであり、言ってみれば完全な「やらせ」であった。この写真の「やらせ」疑惑についてはいろいろなところで語られてきたが、これほどまでに映像ではっきりみせられるとちょっと唖然とした。

NHKスペシャル「憎しみはこうして激化した〜戦争とプロパガンダ」

 (NHKオンデマンドで2018年8月3日まで視聴可能)


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