石牟礼道子さん逝く
作家の石牟礼道子さんが今日亡くなった。水俣病をテーマにした「苦界浄土」を書いた。
ユージン・スミスの写真集「水俣」にも文章を寄せている。
水俣の地で、写真家と作家は、同じテーマについて作品を発表した。
二人の水俣へのアプローチは大きな共通点があった。どちらも水俣病に苦しむ人たちに寄り添い、その人たちが伝えたくても伝えられない想いを伝えるための「媒体(ミディアム)」になった。
どちらの作品も、ドキュメンタリーかと言うとそうではない。ジャーナリズムかと言うと、そうであるとも言えるし、そうでないとも言える。
石牟礼さんは、言葉を発せられない患者が言いたいであろう心の言葉を文字にした。ユージン・スミスは患者や家族の想いを写真にした。それは患者たちと作家や写真家の「共同作業」とでも言うべきものだ。
事実をありのままに伝えれば常に誠実であるとは言えない。二人の作品を読み、見た後では、「事実」を錦の御旗のようにふりかざすフォトジャーナリズムは薄っぺらに見える。
作品のジャンルなど超越し、この二人の表現者によって、私たちは水俣の苦しみをいちばんのリアリティを持って体験できた。
この上なく美しい日本語と、この上なく力強い写真を残し、二人とも消えてしまった。

ユージン・スミスの写真集「水俣」の巻頭に石牟礼道子は文章を寄せている。